厳冬期登攀です。
このためにメイドインフランスのアックスを新たに追加。
今日は完全装備です。
完璧にして臨まないと太刀打ち出来ない強敵。
八ヶ岳のバリエーションルート、厳冬期の大同心稜とルンゼからの横岳登頂です。
はい、すでにマニアック過ぎて意味不明ですね。
ここから更に変態的な専門用語連発なので無視して下さい。
本当は裏同心ルンゼ、もしくは南沢大滝アイスという夢のような行程を想像しつつ、どうやらまだ氷が育っていないとの情報から大同心ルンゼに変更。
本当はガチガチに凍った滝を登りたかったんです。
今までの八ヶ岳登山は弾丸で赤岳や阿弥陀登ってムフフと帰って来ましたが、そろそろそんなお花畑的な登山ではアドレナリンがドバドバ出なくなってきました。
もっとヤバいの頼むぜ、ぶっ飛ぶヤツ、みたいな事です。
まずはいつも通り、美濃戸から行者小屋まで。
ガッツリ積もっており、昨日の新雪もありラッセルエリアもあります。
だんだん生命の気配がしないモノトーンの世界に入っていきます。
いつも通り、時間がないので行者小屋はスルー、アイゼンを8本爪から前爪付き12本という変態アイゼンに履き替え、ヘルメット、ハーネス、アックス装着、なんとゴーグル忘れてしまい、フェイスマスクにサングラスで出陣。
ちなみにヘルメットは皆さんご存知の自転車用のエアロヘルメットで代用。
その辺はこだわりないです。あるものを使います。流石にバイクシューズでは登りませんが。
岩の取り付きに到着。
まったく何も見えません。
ヤバイ展開。
この時点でマイナス18度。
風が強くなってきました。
残念ながら、寒すぎてiPhoneが仕事放棄してしまい、これ以降写真ありません。
あっても危険すぎて写真なんか撮ってる場合じゃなかったです。
ガスが濃くて全貌がよくわかりませんが、何度か通っているのでルートはとれます。
まあ、登り始めればなんとかなるだろうと。
まず基部からルンゼまでビビりながらトラバース。氷が薄くてアイゼンが効かなくて逆に怖い。
氷が薄く、岩にアイゼンが当たるのが非常に嫌な感じです。この日のために、ドロップキックしたら鹿の一頭仕留めるくらいビンビンに研いでおいたのに。
実はここが一番滑落事故多かったりして。
無事にルンゼ取り付きに到着。
さて1ピッチ目
ボクちゃん、この日のために毎日毎日懸垂して来たのだ…
と、意味なく筋肉に喝を入れて登攀開始。
10メートルほど登った辺りに途中残置シュリンゲを発見。
このシュリンゲ、大丈夫か…と思いながらセルフビレイ。
昨日の雪がパウダーで氷の上に乗っかり、手がかりが見つからない。
アックスとアイゼンだけでいけるのか非常に不安。
下は25メートル切れ落ちてます。
ルンゼは日も当たらないし、ここのところとにかく気温だけは低いのでカチカチに凍ってます。
やっとテラスに出た。
なんとか2ピッチ目。
これは手とアイゼンのみで登れそうな傾斜。
ワークマンで買った冷凍倉庫作業用の手袋大活躍。アックス滑らないし暖かい。
しかしながら風が強く、目に氷が入って開けていられない。
おまけに風で落石ならぬ落氷が。結構な大きさだったのでヘルメットしててよかった。
鼻水、涙、吐息がフェイスマスクで凍ってバキバキになる。
睫毛が凍る。貴重なのに。
そして極め付きは目が曇ってきました。
ゴーグル忘れて目が乾いてるのかと思いきや、多分これは角膜が凍っているのでは?と。
しばらく目を瞑って溶けると視界が開け、しばらく風にさらされるとまた白く濁ります。
コンタクトが凍ったのかも。
どちらにしても、あー、ヤバイぞ。
上を見上げると岩壁の上、横岳稜線は雪煙がグォーという物凄い勢い音と共に南に飛んでます。
ありゃ、ふつうに縦走しても飛ばされるかもな…
そういえば、おととい槍ヶ岳で単独登山者が滑落して死んでたな…
下はゴリゴリの岩。落ちれば確実にヤフーニュース決定。
神奈川県40歳自営業男性、雪山単独登山で滑落。経験不足が原因か?!
そしてコメント欄には
ワザワザ死にに行くようなヘタレ野郎を助けるのは税金の無駄だ、自己責任だ自己責任!
と、書かれるのだろうか。
どうでも良いけど、正月に餅食って喉に詰まらせて救急車で運ばれるのと、冬山で滑落してヘリで運ばれるのと何が違うのだろうか。
冬期登攀が単独危険行為だというなら、正月の餅つきは、もはや同時多発テロ行為ですね。
と、どうでもいい事を思いつつ、二の腕とふくらはぎがプルプルしてくる。
マイナス20度かというくらい寒く強い風が吹いているのに、緊張でケツに汗が流れるのがわかります。
本当の恐怖というのは氷に刺さったアイスアックスを握ってプルプル震える上腕二頭筋や薄い氷に儚げに刺さって全体重を支える二本のアイゼンの前爪が鳴らす金属的なキャキャッという嫌な音とそれを支えにバランスを取れなくなりつつあるふくらはぎのパンプの事を言うのですよ。
とはいえ、稜線まではあと少し。
腕がパンパン、ふくらはぎもパンパンです。
グァー、と言いながら這うように登ると稜線が見えました。
ウヒャ、ボクちゃん、登りましたよ!生きてますよ!
おにーさん、ボクちゃんの写真撮って下さいよ!
と、叫ぶ元気もなく、というかこんな日に誰もおらず、風が強くて立って居られなく、四つん這いで地蔵尾根まで行き、急いで下山。
今回ほどの緊張感はなかなか味わった事ない特別なものでした。
それにしても慣れた頃が危ないというのは厳冬期クライミングのことでしょうね。経験は大事だけど、ナメてかかると本当に簡単に死にますね。
とりあえず、正月にどうしてもやりたかった事を達成できたので大満足です。
当分この思い出をオカズにしてアレできますわ。